ストーリー
伊勢湾の湾口にある歌島は、周囲1里に充たない小島である。
久保新治はまだ18歳。
海の男のみが持つ澄んだ目をした無口な青年だった。
彼は一昨年中学を出るとすぐ十吉の船に乗り込み、母と弟の生計を助けていた。
彼がその見知らぬ少女と出会ったのは夕暮の浜だった。
風に髪をなびかせながら少女は暮れていく西の海の空を見つめていた。
若者はその顔に見覚えがなかった。
といって少女は他所者らしい身装はしていない。
少女は軽く眉をひきしめ、彼の方は見ず、じっと沖の方を見つめたままだった。
翌日、新治は船で十吉から昨日の少女の話を聞いた。
男やもめで金持で、しかも村一番のがみがみ親爺の宮田照吉が、一人息子に死なれた為、他所に預けておいた末娘の初江を呼びもどし、島で婿取りをさせるというのだ。
数日後、山の観的哨跡に薪を取りに出かけた新治は、そこで道に迷って泣いている初江に出会った。
彼はこの幸福な出会いに目を疑った。
観的哨跡から見える景色を初江に説明しているだけで十分幸福な新治だった。
給料を貰った夕方、新治は初江の入婿に安夫がなるという噂を聞いた。
暗い心を抱いて家へ帰った彼は給料袋を無くしたことに気づき、浜へ探しに戻った。
そこへ初江が大きく胸をはずませ駆け寄ってきた。
給料袋を自分が拾った事を告げに……。
そして安夫との噂を問う新治に、初江は砂の上に崩折れて笑った。
新治の心に勇気が蘇り、ふたりはお互いの熱さを知った。
ひびわれた乾いた唇が初めて触れ合った。
ふたりが会えるのは、休漁の日の観的哨跡だった。
ひどい嵐だったが、早めに観的哨跡に着いた新治は烈しい風と遠い潮騒の音の中で眠ってしまっていた。
フッと目をさました彼の前に、裸の初江の姿があった。
ふたりはお互いの裸の鼓動を聞いた。
永い接吻だけでふたりは幸福を感じる事ができた。
新治と安夫は島の青年の憧れの的である日の出丸に乗り組み訓練を受ける事になった。
初江の入婿は俺だと自信を持っている安夫と、そして出航間際に手渡された初江の写真を情熱と共に胸に秘めている新治とは、婿選びと噂された対立の航海を続けなければならなかった。
航海も終わりに近づいた頃、暴風雨にあった船は大海にのまれそうになった。
人間の腕程もある命綱を身体に巻きつけた新治は、船を守るために、浮標めがけて真暗な怒濤の中に飛び込んでいった……。
川端康成の名作『伊豆の踊子』でスタートした山口百恵文芸シリーズ第2弾は、三島由紀夫文学の中で最もポピュラーな名作『潮騒』の映画化です。
潮の香り、海鳴り、きらめく太陽……美しい海の大自然を舞台に、陽やけした少女と若者が恋を囁きます。
神話的ともいえる、純粋で感動的なこの愛の原型が現代の若人たちの胸深くしみる爽やかな純愛文芸篇。
『伊豆の踊子』で川端文学の完全映画化をみせた西河克己監督が、ふたたび山口百恵とコンビを組み、三島文学に挑みました。
原作の島"神島"に長期ロケーションを敢行、美しい南の島に、山口百恵の神秘的な魅力が満開することでしょう。 "